タチバナが着席すると同時に彩芽のドリンクがテーブルに置かれて


「ジンよ」と彩芽はグラスを持ち上げタチバナにウィンク。


「それも強烈な、な」と俺が付け加えると


「強烈なのはその性格だけにして欲しいですね。俺はナインピック」とバーテンに頼み、おしぼりで手を拭くタチバナ。


「彩芽もそうだがお前も相当だぞ(酒の強さも含めて)」と嫌味を言ってやると


「お前の人相に比べれば俺の性格なんてましな方だ?」とタチバナはにやりと笑う。


いちいちムカつくヤツだぜ。


だが、喧嘩をしてる場合じゃない。


タチバナの頼んだ見るも鮮やかな色合いをしたアブサンががテーブルに置かれると、俺たちは乾杯もせずそれぞれグラスに口を付け


左隣に座ったタチバナが一枚の紙をテーブルに滑らせて、俺の手元に送った。


俺はその紙を手で止めると、そこには大狼の顔写真と細かい経歴が載っていた。


「大狼 恵一。現在41歳、鴇田組の構成員で会計士」と俺が読み上げ


「大きなマエ(前科)は無かったわ。25年前程前に、傷害罪で“補導”された経歴は多少あるけれど、そのどれもが高校生同士のいざこざ……まぁありがちな喧嘩ってことで、他校の相手も同様に補導されてる。保護者同士の話し合い…と言うかこの時すでに鴇田組に引き取られていた力が大きかったのね…で決着が着いたみたい。少年院に入る程ではなかったみたいね」と右隣に座った彩芽はすでに経歴を暗記していたのだろう、淀みなくスラスラと説明。


「その後は駐禁もスピード違反もしていない、まっさらだ」


とタチバナがちょっと面白くなさそうに言って頬杖をつきながら、彩芽の後を引き継ぎ、


「結婚歴も無かったわ」


ふぅん、そうか。白虎のガキ共が何故タイガをスネークだと疑ったのかは未だ分かっていない。


だがタイガの方はあのガキ共に嗅ぎつけられたくない秘密を握られたんだろう。ガキ共はそれをネタにあいつの元へ行った。


俺たちだって知らなかった事実を―――あのクソガキどもはどうやって知ったのか―――……


いや、今はそんなことを考えても仕方ない。あのガキどもがどうやってネタを掴んだのかは気になるが、俺には俺のネットワークがある。警察と言う名の強力な、な。