「菜月、切ってやるよ」
いつも突然で。
ドキドキが止まない。
「ありがとう」
「今日はどこを切ってくれるの?」
この前、前髪を切ってもらったばかりで
正直そこまで伸びていない。
そう言った時にはもう葵の手は動いていた。
目の前にはパジャマ姿で真剣な表情の葵。
見惚れてしまう。
口元がつい緩んでしまう。
何ニヤついてんだよって言われるから
目を瞑った。
でも、勿体なくて見ていたい。
迷いがなくて素早くて
いつも凄いなって思う。
「夢みたいだなーまだこうやって切ってくれてるの信じられないし、嬉し…」
「黙って」
「はい…」
「こっち向いて」
「はい」
「可愛いよ」
「ありがと」
普段あまり可愛いとか言わないのに
こんな至近距離で言う?
これは作戦ですか?
何なんですか。この夢の時間は。
もっと早く前髪伸びてほしい。
何度も前髪切ってほしい。


