俺は自分の名前を言われたことに驚愕したが、それと同時に安堵した。

やはり俺のことではない、俺と同じ名前の全く別の人間のことを恵は恨んでいるのだと、俺はそう確信した。

俺は一刻も早く誤解を解きたかったが、どうすれば誤解を解けるか迷い悩んだ。

なにせ、名前を見ただけで襲ってくる女だ。

下手に話を切り出せない。

俺はどうしていいかわからず、

「蓮太か、名前は俺と同じだな。」

と、なんとも白々しい返しをしてしまった。

それに対して恵は

「やめてくださいよ、変な冗談。」

と、俺は怒られてしまった。

あぁ...バレたらどうしよ...。

いや、人違いなんだからバレることを恐れるのも変な話ではあるのだが......

「でも....」

恵がまた口を開く。

「蓮太さんは喜山蓮太なんかとは違いますよ。人を殺しなんかしない、むしろ人を生かしてくれる素敵な人ですよ。」

俺は胸が痛くなる。

いや、何度も言うが絶対に人違いだ。人違いではあるが、俺を喜山蓮太と知った時のことを思うと胸が痛くなる。

いや、人違いなんだがね?

やはり俺の苗字だけは死守せねば。

と言ってもやはり限界はある。

バレた時のために色々考えなければいけない訳だが......

そもそもバレたという時点で、隠していたという事実は明白な訳で。

となるとますます状況は悪くなるなぁ......

やはりバレる前に自分から言うのが正解なのか...?

今になって本気で悩み始める俺はやはり馬鹿だなぁ.....

恵と過ごした一日はすごく楽しかった。

俺を殺しにかかる女ということも忘れるくらいに。

いや、その現実から逃げていただけなのかもしれないが。

でも向き合わなきゃいけない。

いずれ名乗らなければいけない。

ならば今.........今!

「なぁ、恵。」

「Zzzz.....」

「マジかよ.....。」

腹を括って、体中に力を入れまくっていたが、一瞬にして抜け落ちていった。

あぁ.....今じゃなきゃ言える気がしねぇ。

とりあえず寝よ......。

俺は横を向き、毛布を深く被って眠りについた。