午後四時

西に沈む赤い夕日がベランダの窓から差し込む頃、電気のついていない薄暗いリビングの机の上で、ポンと置かれた俺のスマホの画面が光る。

電話だ。

俺はスマホの画面を覗き込む。京香からだ。

俺は急いで電話をとった。

「もしもし京香、どうしたんだ、なんかあったのか?」

俺が急に喋りだしたもんだから、恵は不思議に思ったのか俺の部屋から顔を覗かせた。

俺は電話だとジェスチャーをすると、恵はまた俺の部屋に戻っていった。

『もしもし.....』

電話の向こうから今にも消えてなくなりそうなくらいに微かな京香の声が聞こえた。

「どうしたんだよ京香、何があったんだ。」

いつも明るく元気な京香だが、明らかに様子がおかしい。

俺は彼女が喋り出すのを待った。

きっと自分のタイミングで話し出したいと思っていると勘づいたからだ。

十数秒ほど待ったあと、ようやくまたも小さく弱い声で話し出した。

『...たとえ信じていた人に裏切られたとしても、その人が死んだらショックだよね....だって1度は信じた人なんだもん......』

正直、何の話をしているのかわからなかった。

だがすぐに、それは俺にわかる必要がないことはわかった。

京香は俺に相談に乗って欲しいんじゃない、同情して欲しいんだと、そうすぐに悟ったからだ。

だから俺は敢えて何も聞かなかった。

俺は京香が言うことに優しく小さな声で返事するだけだった。

今の京香の様子だとこれがベストだろう。

話したくなったらそのうち話すだろうと、考えていたがやはり人間気になるものだ。

俺は少しだけ催促をした。

「京香、お前に何があったかはわからない。今は言いたくないんだろう。でも俺はいつだってお前の味方だ。だからまたいつでも話したくなったら話せよ。」

俺がそう言うと京香は少し嬉しそうに「ありがとう」と言った。

俺は微笑んで電話を切った。