梟から何かも分からない鳥へと鳴き声が変わっていった。
「ここだよ!ここにいるよ!」
と存在を伝えようとしているみたいに思えた。
しかしその中に必死さは微塵も感じられず、
自分が居ることは当たり前だが貴方たちにしっかりと見て、聞いて欲しいのと言っているようだった。

「君はいつも欲しいものがあるんだね。
 昨日は僕だったと思ったんだけどね、
 それももう違うか。」
「そうね。
 あ、でも昨日貴方が欲しかったのは確かよ。
 心配しないで。」
「心配なんかしてないさ。」
「そう。」

私は私が居ることを感じられない。
歩いているのに、喋っているのに、
私の存在を感じる事ができない。
鏡に写った自分の肌を触って、
感触を得ることが出来るがそれも全て無いもののように思えてしまう。
そんな存在しないモノのはずなのにどうしてか過ぎていく人々が全員私を見ている気がする。
頭の先から足の先まで、2周も3周も見られている。
私の息遣いや足音、服と肌の擦れる音まで皆が聞いている感覚に陥る。

「一つ質問していい?」
「ええ。」
「どうして君はそんなに色々なものが欲しいんだい?」
「さあね。」

理由は自分でも理解が出来ていない。
だからこそ常に欲している。
理由は分からない。
だけど、物は自分が手を加えないと動いてくれない。
それが自分がいる。役に立っている。
と実感させてくれるような気がする。
人の話を聞いたって、それに答えたって、
彼らの心の動きは私によるものではないかもしれない。
だけど、道具は誰によって動かされているのか明確だから、私の存在証明にも意義にもなり得る。
レコードを回しているのは私ではない。
だけど針を置いたのは私だ。
音を出しているのは私ではない。
だけど音が出るように線を繋いだのは私だ。

「そうか。答えが分からないんだね。」
「そうかもね。」
「僕が今欲しいものは一つなんだけど何だか
 分かる?」
「それだけアピールされたらどんな馬鹿でも
 分かるわよ。」
「じゃあ、どう?」
「お断りよ。もう欲しくないもの。」
「僕は間違いなく君によって心を動かれて
 いるよ。
 昨日は君と寝れて凄い嬉しかったし、
 今は凄く悲しい。
 全部君のせいだ。」
「顔と言ってることが全然合ってないわよ。」
「そんなもんだよ。」
「そんなもんなのね。」

雨風にさらされて少し茶色くなった手すりにさっきまで鳴いていた鳥がとまった。
決して鮮やかな色では無いが凛としていて美しい。
私よりも数倍。
目が合う恐怖と目が合わない憂虞。
どちらか一方だけでも気が狂いそうなのに、
同時に圧し掛かられたら耐えられない。
もうどうしようも無いのだ。

「珈琲淹れようか?
 君の家のコーヒーメーカーは豆から挽く
 タイプ?」
「自分で淹れるわ。あなたは?
 それとミルは別でハンドドリップよ。」
「もちろん。
 君が淹れる珈琲はさぞ美味しいんでしょうねぇ。」
「からかわないで。期待するだけ無駄よ。」
「そうかい。」
「そうよ。」