そのまま手を繋ぎ、お互い何も話せずに園内を歩いていると突然、
「…あ」
と彼女がこぼし、目線の先にはブランコ。
「そ、宗ちゃん、ブランコ…! 乗ろ!」
「う、うん」
ほのかは僕の手を引っ張って駆け出した。急にぐんと手を引かれた反動で危うく転びそうになったが、僕を振り返り楽しそうに笑う彼女を見たら何でもよくなった。
「ブランコなんて何年ぶりだろ」
「僕は小学生以来な気がする」
「私もそれくらいかも」
さっきまでの沈黙が嘘のようだ。
「…宗ちゃんて、弟か妹いる?」
「え?」
漕ぐのをやめたほのかは、まだ揺れるブランコで足をパタパタさせながら訊いてきた。僕も漕ぐのをやめる。
「…いないよ、姉はいるけど」
「えっ、お姉さん!?」
「うん…そんなに驚く?」
目を見開くほのか。
「だって、あまりにもしっかりしてるから、5人兄弟とかの長男かと…」
「ははっ、そんなんじゃないよ、全然。2歳上の姉がいるよ」
「へえ〜…けど、いいなあ、私もお姉ちゃん欲しかった」
「ほのかは?」
「私は1人っ子だよ」
いいなあ兄弟、とこぼしながら、彼女はまたひとしきりブランコを漕いだ。
「宗ちゃん、他のとこも行ってみよ!」
「いいよ、行こう」
……恥ずかしさに負けて、手は繋げなかった。口実がないと手も繋げない自分が情けなくなったが、またあの沈黙に耐えられる気がしなかった。



