「姉さん時間だよ、バス乗り遅れるよ」
「解ってるってば待って! マスカラ忘れてたの!」
「……」
昨日入念に準備してたんじゃなかったのか……。
翌朝、時刻は9時10分。
「バス15分発のやつじゃなかったの?」
「そうだよ、だから今急いでるんでしょ!」
慎重にマスカラを塗った姉は「よし行くよっ」と僕を引っ張る。
昨日は、バス停まで案内なんてするつもりはなかったのに、家を出る時間ギリギリまでいろいろと準備をしている姉を見ていたら焦ってしまった。バスに乗り遅れて企業説明会遅刻なんて絶対に避けないと、と思った僕は、気づいたら姉を急かし、バス停まで向かっていた。
バス停に着くと、時刻は———9時15分。
「はあ、はあ…っ、……セーフ…? まだ来てない…?」
息を切らした姉が、スマホで時刻を見ながら「やばもう疲れた」と、鞄からお茶の入ったペットボトルを出した。
「たぶん…けど、ここのバス滅多に遅れないよ」
「え」
待ってよ嘘でしょ? と言いながら、姉はバス停の時刻表を確認しに行く。
「………あ」
「え?」
時刻表を見て固まり、姉は小さく声を漏らした。
「……ごめん宗、15分じゃなくて25分だった」



