「スーツ超窮屈、着替えよ」

「何でスーツ着て来たの…」

「だってスーツケースに入れたらシワんなるじゃん。てか、着替えるんだからあっち行っててよ、見ないで」

「見ないし、着替えるならあっちの洗面所行って」

僕はそう言い残して、先ほどまで座っていた折り畳みテーブルの前に戻る。


……が、

「ちょっと宗、タオルどこ?」

洗面所から、姉の大きな声が響いた。


声デカいよ……そう思いながら洗面所に向かうと、

「え、ちょっと何で来てんの変態」

「ごめっ、てか、呼んだの姉さんでしょ」

「呼んでないよタオルの場所訊いただけ。やっぱシャワー浴びるからタオル貸して」

下着姿の姉がいて、僕は咄嗟に顔を背けた。


「そこの棚の引き出し2段目」

「さんきゅ、変態」

「なっ、」

言い返そうと思ったが、この状態で目を合わせたらまた変態呼ばわりされかねないので、僕はそのまま洗面所を後にした。


「っはあーー…」

こんなに盛大なため息をついたのはいつぶりだろう。


……ていうか、就活のためにこっちに来たのは解ったけど、何で僕の家に来たんだ…?

…ホテル取れなかったとか? ………まあ、それなら仕方ないけど…………事前にアポくらい取って欲しかった。