4月7日


♪~ ダカダカダンッ

吹奏楽部のリズミカルなスネアドラムの音が体育館に鳴り響く。都立城山高校附属中学校の入学式は始まった。倍率4倍。都立の中じゃ決して高くはないけど、偏差値・進学実績は共に都立高校・中学の中でもトップを誇る伝統的な名門校だ。狭き門をくぐり抜けなきゃ合格できない難関校。入学できれば必ずと言っていいほど人に自慢できるような肩書きになるのだけど。

(はぁ。なんで私ここにいるんだろう。)
私、藤咲奏(ふじさき かなで)は入学式というのにも関わらず異様な落ち込み具合。それもそのはず。私はこの学校に来るつもりなんてなかったんだから。




話は遡ること半年前。小六の夏休み明けだった。

「ねぇ、奏は受験しないのー?」
当時仲良しだった4人組の1人美羽(みう)の何気ない一言がきっかけだった。私は自分で言っちゃなんだけど学年で1、2番目くらいに賢かった。でも大好きなみんなと離れる選択なんて自分から出来るわけない。私は答えた。
「えぇ、特に考えてなかったけど…。」
「そうなの!?てっきり私立の御三家とか都立のすっごいとこ行くのかと思ってた!」
さすが、美羽は楽天的だなぁ。受験なんてそう甘いもんじゃない。

4兄弟の末っ子の私。上はみんな受験したからこそ、その辛さはよくわかる。
長男の颯兄ちゃん(そう)は小4から毎日のように塾に行って憧れてた私立男子校に進学。次男の蓮くん(れん)は大好きなサッカーを犠牲にしたくなかったけど、強豪校でプレーしたいって言って小五の秋から猛勉強。都立の中等教育学校に無事合格。長女の希ちゃん(のぞみ)は上二人の辛そうな姿を見てるからさすがに受験は嫌がってたな。まあ結局ダメ元で受けた都立校に受かっちゃってるんだけど。

私はといえば、蓮くんみたいにそんなにやりたいことも無くて。強いて言うなら2歳からずっと続けてるピアノくらい。だから中学はみんなと同じとこに進むのでいいかな〜と思ってた。希ちゃんみたいにちょっとやれば出来ちゃうような天才でも、颯兄ちゃんみたいにちっちゃい頃から地道に努力してた訳でもないし。というか今まで塾にすら行ったことないのに受験なんてね。


美羽はまだ「奏頭いいのに〜もったいない!!」とかなんとか色々言ってたけど、いつの間にか好きなアイドルの話に変わってた。

全ての失敗は私がこの話を、家に持ち帰っちゃったこと、そう。それが原因だ。
ママとパパがこれを聞いて「してみればいいじゃんか。」と乗り気になっちゃったのだ。さすがに颯兄ちゃん達は反対してくれるかな、と思って聞いてみると意外にも賛成してくれて私は塾に通い始めることになった。と言ってもお世話になったのはは受験までの半年間。それでも遊びたいのを我慢して自分なりに頑張ったんだよ。す塾って想像してるよずっとお高いから…適当な気持ちでやってられなくて。塾の料金バカにしちゃいけないんだよ!!たまたま知っちゃった時びっくりしたもん。まぁそんなことはさておき。謎な自信と本番に強い精神力のおかけなのか、私は合格してしまったわけなんです。



やっぱり寂しいよ…美羽たちがいない学校なんて。私には耐えられない。まだ式は終わっていないのに涙が出てきそうになってしまった。行けない、行けない!!必死に校長先生の話に耳を傾けるけど全く頭を通らなくて…。落ち込んだ気分のまま入学式は終わってしまった。



これから待っているのは幸せな中学校生活だとはこれっぽちも知らずに、私の記念すべき中学一日目が終了したのだ。

そう、そして今思い返せばこの日が私たちの始まりだった。