(パズ。時間は待ってはくれないわ。)

あぁ、母さん知ってるさ
忘れたくても忘れれない言葉。

時は始まりを告げ、時は終わりを告げる
(時は始まりを告げ、時は終わりを告げる)
向かって、来て、過ぎていくものよ。
(向かって、来て、過ぎていくものだ。)

「パズ、おぃ。パズ。起きんか!」ドンっ
「いでっ」
クラス中から聞こえる笑い声
「今、何時だと思ってるんだ!お前の朝は昼か?
時差ボケにしても笑えぬ冗談だぞ。続きを全て読みなさい」

「え、はい。うーん。。」
「ぉぃ、パズ3-18の頭から」
「あ、時間を測るにはカレンダーや時計がありますが
測ってみたところで特に意味はありません。というのは…」

ーチャイムの音

「はい、ここまで。最後の授業のレポートは夏休み明けに提出すること」

「「はーい。」」

クラスメイトの揃った返事と共に先生は教室を後にする。この時を待っていたかのように、先程の僕のピンチを救ってくれた友人のスケッチが声をかけてきた。

「おい、パズお前また寝不足か?どうせまた時計の見間違いだろ。いい加減、部屋の時計変えろよな」
 
「スケッチさっきはありがとな。ご名答〜。うーん、でも気に入ってるからあの時計は変えたくないんだ」

スケッチの言う部屋の時計とは小さい頃、母が僕へ誕生日にプレゼントをしてくれた時計のことだ。
僕の部屋の時計は、みんなのよく思い描く時計が3つあり、秒針の盤、分針の盤、時針の盤と分かれている何とも不思議な時計だ。
夜、寝る前に時計を見ると分針が22:00を指している。
それを時針だと勘違いする僕は、夜更かしをしてしまい
ふと、時計の本来の時針を見ると3:00を指しているのだ。寝坊する時も同じ現象が起きたりする。

確かに、何度も時計を変えた試みはあったが違和感と共に又、元に戻してしまう。

「まぁ、パズがいいならいいけどよ。あ、パズ
今日も映画館行こうぜ!おじさんに今日も頼んであるから」

「本当にいいのか?いつも、どこか申し訳ない気持ちなんだけどな」

「いいからよ!ほら、今が、、16:00だから17:00に
CPCのポップコーンの前な!」

「OK、OKわかったよ。遅れないで行くから」

そう交わして、2人は学校を後にした。

スケッチは家に帰り、慌ただしく階段を駆け上がり、自身の部屋ではなく
兄の部屋に入って行った。クローゼットの吊るしを掻き分け、紺色のセットアップのスーツに真っ白いシャツ、赤いネクタイ。25歳の兄と比べると、16歳のスケッチには少し大きすぎるのか、腕の袖とズボンの裾を2回ほど折っている。ネクタイは何度か練習していた為か、上手くできている。本来、後ろに隠れるはずのチップが前に顔お出している以外はね。

階段を駆け下り鏡の前で、朝の寝癖を父のグリースでカチカチに固める。鏡に映る自分の姿に納得したところでキメ顔の練習。
そしてこのセリフ

「キャシー、君のポップコーンはいつも熱々だね」

どうやら今日こそCPCのキャシーをデートに誘う
気持ちで高鳴っているようだ。

「スケッチー。帰ったのー?今日は庭の草をお願いしてたでしょ?スケッチー?」

一階の奥にあるキッチンから母の声が聞こえてきた。
スケッチは慌てて、母に見つかる前に玄関に置いてあったリュックだけ背負い、家を飛び出して映画館へ走って行った。

その頃パズといえば、家には帰らずに寄り道をしながら映画館へ向かって行った。

家に帰っても誰もいないのを感じたくないためだ。
このことが反ってパズの時計を狂わせ始めた。