訳あり冷徹社長はただの優男でした

どれくらい時間がたったのか、いつの間にかすずの泣き声は聞こえなくなっていた。

さすがに放り出してきたことに心配になってリビングへ行くと、柴原さんがすずを抱っこしてソファに座っていた。すずは柴原さんの胸の中ですやすやと寝ている。

「さっきようやく寝たんだよ。泣き止まなくて大変だった。」

立ち尽くす私に、柴原さんが苦笑いしながら状況を教えてくれる。すずのぐしゃぐしゃになった髪と柴原さんのシャツに付いている大きなシミ。相当泣いてその度に拭かれたに違いない。私が投げ出して怒って自室へ逃げたことに、今更ながら罪悪感がわいた。

「…ごめん、なさい。」

「美咲が謝ることはないよ。」

「でも。」

「ここおいで。」

柴原さんは自分の横の空いているソファをトントンと指示して私を呼んだ。
私は素直に従い、柴原さんの横にちょこんと座る。

一緒にソファに座ると柴原さんとの距離がぐっと縮まる。

「俺がすずをママに会わせることにしたから美咲に嫌な思いをさせてしまった。ごめん。」

謝る柴原さんに、私はふるふると首を横に振る。

「すずはママに会えて嬉しそうだったしお姉ちゃんもすずに会えて嬉しそうだった。会ってよかったんだと思う。家族だなあって思った。」

そしてそこには柴原さん。
私の入る余地はなかった。
私は家族ではないから。
思うと急に胸が締め付けられてじわっと涙がにじんだ。
慌てて拭おうとするも柴原さんに目ざとく見つけられ、大きくて長い指が私の目尻をかっさらっていった。