訳あり冷徹社長はただの優男でした

すずはお気に入りの長靴で病室までしっかり歩いて行った。

「お姉ちゃん、すずが。」

カーテンをそっと開けると、待ちきれないといったばかりのすずが飛び出す。

「ママ!すずきたー!」

「えー?」

姉は驚きつつも嬉しそうに目を細めた。

「すずね、ながぐちゅだよ。ほら、みて。」

「ながぐちゅ?」

「ながぐちゅだよ。ねえねにかってくれた。」

「ああ、長靴ね。すごく可愛い。買ってもらったの?よかったねぇ。」

すずはドヤ顔で長靴を自慢すると、ベッドへよじ登ろうとする。慌てて止めようとしたが、姉はおいでと手を伸ばした。
ベッドの上に座ったすずは満足そうに笑い、今にも飛び跳ねそうでハラハラする。

「ママいたいいたいなの?とんでけする?」

「とんでけ?」

「いたーのいたーの、とんでけー!」

「すごい、飛んでった。」

「あはは!」

「すず、たくさんおしゃべりできるようになったね。すごいね。」

「すごいでしょー。」

二人のやり取りは数ヵ月のブランクを感じさせない。
楽しそうに笑うすず。
楽しそうに笑う姉。
その光景を見るだけで、私は胸が熱くなった。

ふと腕を引っ張られ柴原さんが耳元で小さく言う。

「しばらく二人だけにしてあげよう。」

私は頷き、柴原さんに連れられて一旦病室を出た。