訳あり冷徹社長はただの優男でした

黙ってしまった私に、姉は優しい眼差しを向けた。

「ねえ、柴原さんのこと知ってるの?」

「知ってるも何も…お姉ちゃんがイベントコンパニオンで知り合ったベンチャーIT企業の社長って言ってたのを思い出して調べたんだよ。」

「さすが美咲。探偵もできるのね。」

茶化す姉に私はそっぽを向いて呟く。

「結局はすずの戸籍謄本で確認した。」

「そっか。ねえ、そこの棚に私のカバンが入ってるから取ってくれる?」

私は姉に指示されるまま、据え付けの棚の扉を
開けた。いつも姉が肩から掛けていたショルダーバッグが収納されていて、それを取り出し渡す。

姉はカバンの中から封筒を出すと、私に差し出した。可愛げのない普通の茶封筒だ。

「これを柴原さんに渡してもらえないかな。」

「…いいけど。」

手紙でも入っているのだろうか。
封筒には宛先も何も書かれていなかった。

「それから、もうここには来なくていいよ。最後に会えて嬉しかった。」

そう言って姉は私の腕を押す。
早く帰れと促されているようだ。

「お姉ちゃん…。」

「ごめん、疲れたからちょっと寝るね。」

再び横になった姉はそのまま目を閉じた。
本当に疲れたからなのか、はたまた私とはもう話したくないからなのか、その真意は図りかねた。