デパートを少し離れた所に

公園があった。

「昔、ここはビルだったんだ。
そこの…………何階かは覚えてないけど……。
一角で、料理教室をやってて。
お袋はそこに、通ってた。
幼い俺は、邪魔にならないように隅っこで
ビスケットを食べてたのを覚えてる……。
週一度だった習い事が、二度三度と増えていき。
初めは純粋に、習うだけだったから数時間だったのに。
気づくと。
朝から、親父が帰るギリギリまでだったんだよなぁ。
退屈な俺は『行きたくない!』って………ごねてた。
大人になるにつれて
あれは浮気だったんだって分かったけど……
子供の俺には、もちろん分かる訳もなくて。
ある時親父に
『行きたくない!』って……言ったんだ。
お袋は、続けたかったみたいだったけど。
親父に反対されて……
結局お袋は、料理教室を辞める事になって。
………………俺を捨てた。」

祥ちゃんは………。

またお兄ちゃんの顔に戻って

辛そうに歪めてる。

私はソッと………背中に手を置いたの。

『大丈夫。
大好きだよ………。
一緒にいるよ。』って……心で呟きながら………。

私の気持ちが伝わったのか。

また話し始めるお兄ちゃん。

「あの日。
ずっとイライラしていたお袋が
珍しく『買い物に行こう。』と、連れ出してくれたんだ。
オモチャを買って
お子様ランチを食べて………。
久しぶりに楽しい時間だった。
特に嬉しかったのは………
お袋の笑顔だった………。
辞めてからずっと、俺を敵のように睨んでいたお袋が。
以前の『ママ』の笑顔で、抱きしめてくれるんだからなぁ~
あの笑顔は、今でも時々夢に出る。
………もちろん、その続きまで………。
続きっていうのは…………。
置き去り事件の事。
『ちょっと電話して来るから、待っててね。』と
ベンチに座らせられて指切りした………約束。
オレンジジュースを片手に、何時間も待ったんだ。
蛍の光が鳴っても、そこを動かない子供を。
不信に思った従業員が、保護するまでずっと………。
俺は………お袋を待ち続けた。
あの笑顔の約束を守るために…………。」

泣いたらダメだって思うのに………

ポロポロ涙が溢れて仕方がなかった。