「………………ここ?」

「だから、楽しい所じゃないって言っただろう?」

そこは………

今は閉めているデパートだった。



「………懐かしいなぁ。」

お世辞にもキレイとは言えない

寂れた建物。

でも……それを見上げる祥ちゃんは

とっても感慨深げなの。

この時私の頭に浮かんだのは……

子供の頃にお兄ちゃんから聞いた

お兄ちゃんとお兄ちゃんのお母さんとの思い出。

この建物とどんな思い出があるのかは、分からないけど。

多分、間違いないと思う。

だって……祥ちゃんの顔は。

2日前の洗面所での顔と一緒で………

少し幼くて。

孤独を抱えていたお兄ちゃんの顔をしていたから。

私は少し離れて………

お兄ちゃんの邪魔にならないようにした。




「………和花。」

どれくらい時が過ぎたのか。

右手を差し出して、名前を呼ぶお兄ちゃん。

その表情は……もう祥ちゃんに戻ってた。

近づき、手を握ると。

「ずっと俺の隣に居てくれるって………言っただろう。」と

可愛い言葉をかけてくれる。

「ここがノスタルジックで……
私には目新しかったんだぁ…………。
ごめんね。
…………ずっと一緒だよ!」

そう言って、ギュッと握り返すと

「俺の過去…………。
聞いてくれるか?
和花には、知ってて欲しいんだ。」って。

私が聞いてもいいの??って思うけど。

祥ちゃんは、私に聞いて欲しいって………言ってくれた。

お兄ちゃんの苦しみを、取ってあげることは………

まだ子供の私には、難しいと思う。

それでも、話したいって言ってくれるのなら……。



「聞くよ。
………聞かせて。
祥ちゃんの気持ち…………
いっぱい知りたい。」

そう伝えた。