昔の記憶を頭から掻き消して、じっと瀬野を待つ。
しばらくして彼は制服姿でリビングへと戻ってきた。
ようやくいつもの瀬野になった気がする。
見慣れた姿の彼に、心のどこかで安心した。
今は年相応の男に見える。
「準備できた?」
「できたよ。ごめんね、待たせて」
「別に。じゃあ行こう」
正直まだ6時半と早い時間だったけれど、念には念をということで早く行っておきたい。
「もう行くの?」
「じゃあ別々に行く?
ここから学校の行き方なんて調べたらわかるし」
「そんな冷たいこと言わないでよ。
俺はまだ川上さんといたいなぁ」
じっと、私を見つめてきて。
断りにくいような空気にされてしまう。
「嫌って言ったら?」
「んー、どうしようか?」
私の隣に腰を下ろし、慣れた様子で肩に手をまわしてくる。
どうやら私の自由を奪おうとしているようだ。
「さっきまで家に帰るの怖がってたくせに」
怖がっている、は言い過ぎかもしれないけれど。
瀬野の弱さを見つけたくて、先ほどの彼の異変をわざと指摘してみる。
「うん、怖いよ」
「……は」
否定するものだとばかり思っていたため、それを認めた瀬野に対して素直に驚いてしまった。
「なるべくここに戻りたくないから女の家を転々としてるし、今も川上さんがいなかったらすぐ出てると思う」
「な、なんでそんな…」
「こんなゆったりと過ごすの、川上さんの家に泊まって以来だなぁ」
私の肩に頭を置いて。
まるで甘えるような行動を起こしてくる。



