愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜





「瀬野の家、マンションなんだね」


バイクを走らせること20分。
瀬野の家があるマンションに到着する。

13階建のマンションは綺麗な白系の造りをしていた。


「俺の家は6階だよ」
「それでも高いんだろうなぁ」

私が住んでいるアパートとは比べ物にならないぐらい高くて奥行きもありそうだ。



私のアパートなどにはついていないエレベーターに乗り込み、6階へと目指す。


チラッと瀬野に視線を向ければ、口をかたく閉じて少し緊張しているように見えなくもない。

普通の人間がこんな顔をして家に帰るだなんて、あり得るだろうか。


今の私ならそれだけでも幸せだと思い、満面の笑みを浮かべて家に帰る頃だろう。

当たり前だと思っていた日常が一瞬で壊れるだなんて、考えてもみなかった。


「…瀬野?」

互いに口を開くことなく6階に着くなり、瀬野に手をそっと握られた。


「こっちだよ」


優しく手を引かれて瀬野の家に向かう。
その間も瀬野の顔は強張っていた。

変なの。
私まで緊張が伝わりそうだ。