「別に逃げる気はないけど」
逃げたところで簡単に捕まりそうな気がする。
弱みを握られている身だし、下手な動きはできない。
「その視線が怖いんだよなぁ」
「はい?」
「揺らがないから、全く。
読めない女は不得意分野だな」
「人を攻略しようみたいな言い方しないで」
思わず睨みつける。
善意でこうしているのに、なんだその物言いは。
「面白いこと言うね、川上さん」
「……もう行かない」
「ダメだよ、そんなこと言わないで」
「…っ、触るな」
すぐに表情が変わる不安定な瀬野に頭を撫でられたため、咄嗟にそれを拒否する。
「昨日とすごい変わりようだね」
「褒め言葉をどーも」
「まさかここまで豹変するって誰が考えただろう」
「それはこっちのセリフ。瀬野が危険な人間なんて誰も思わないでしょうね」
簡単に女と関係を持つぐらい軽くて。
大人の男に一瞬で勝てるほど強い。
それから───
「まさか。
俺は危なくなんてないよ」
「どの口が言うんだか。
あんたって一体何者なの?」
そういえば瀬野の核心についていない。
裏と繋がっているのはわかったけれど、最後までは知らないのだ。



