愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜




「それだけ家が嫌いなんだね」

逃げるように立ち上がり、ブレザーを羽織る。
目が覚めたのなら無理矢理寝かせる必要はない。


「家も嫌だし、ひとりも嫌だからとんだわがまま人間だよ」

「変な人。
ひとりの何が嫌なの?」


そういえば、一人暮らしは無理だとかなんとか言っていた気がする。


「ひとりは寂しくならない?」
「……子供染みた考えだね」


寂しいなんてそんな感情、もう忘れることにした。

いつまでもメソメソ泣いていると、天国にいる両親に心配かけさせてしまう。


「私は強く在らなきゃいけないの」


弱いところなんて見せない。

強くなって、それからお母さんが好きだと言ってくれた笑顔で毎日を過ごすんだ。



「……すごいね、川上さんは」
「えっ…?」

「ちゃんと自分を持っていて。
俺は逃げてばっかり」


瀬野もゆっくり腰を上げる。
そんな彼に、余裕などはない気がした。


「行こう、川上さん」

まるで私を逃さないように。
手をギュッと握られてしまう。