「瀬野、準備でき…」


着替えが終わり部屋に戻った私は、瀬野の様子を見るなり立ち止まった。


ほんの少しの時間だったというのに、瀬野はベッドにもたれながら目を閉じて眠っていたから。


「本当に寝てないんだ…」


眠気が勝って、瀬野は私に弱さを見せたのだろうか。

それともその弱さすら偽物なの?
考えれば考えるほど瀬野のことがわからなくなる。


「……瀬野」


起こすべきだろうかと悩みつつ、瀬野の隣に腰を下ろす。

フラフラするわけでもなく、瀬野は目を閉じて眠っている。


起こすのは悪いと思い、時間が許す限り寝かせてあげようとしたけれど───



「……準備、できた?」
「…っ!?」

突然落ち着いた声が耳に届き、驚いた私は思わず心臓が飛び跳ねた。


「起きてたの?」
「んー、寝れそうだったけどね」

ゆっくりと目を開けて私を視界に捉える瀬野。
眠たいのか、まぶたが重そうだ。


「少しぐらい寝たら?
学校で寝ても知らないよ」

「なんかここにいると、睡眠薬飲まされた感覚になるね」

「……は?」


まるでバカにされているような気がするのは私だけだろうか。

睡眠薬を飲まされた感覚ってなんだ。
さすがにひどくないだろうかと。


「あ、ごめん言い方悪かったね」
「意味分からないから」

「普段全く眠たくならないのに、ここに来たら不思議と眠気がやってくるんだ。この間も驚いたよ、川上さんが起きたのも気づかないくらい深く眠ってたなんて」


完全に目が覚めたのだろうか。
スムーズに話す瀬野。