「バイクは来客用の駐輪スペースに停めて。
……こっち」
「いいの?」
「どうして同じことを二回も言わなきゃいけないの?
早くして」
戸惑う瀬野に、昨日の面影などない。
「……ありがとう」
「勘違いしないでよね。
一応脅されてる身だし、それに…」
来客用の駐輪スペースに着き、私は立ち止まる。
「昨日、助けてくれたお礼だから」
なんて、単なる言い訳な気がする。
瀬野の寂しそうな表情に、心のどこかで惹かれたものがあったのかもしれない。
強くあろうと思っていても、本心を騙すことはできない。
考えないようにしていても、弱い部分が私にもまだ残っているのだ。
スマホの時計を確認するとちょうど5時を過ぎたところ。
「瀬野の家から学校までどれくらい?」
「電車で40分くらいかな」
「結構遠いんだね」
「まあ、うん…」
何気ない会話をしているつもりだったけれど、瀬野は言葉に詰まらせている。
「じゃあすぐ準備するから部屋で待ってて」
家の中も外と同じくらい冷えていたため、急いで暖房をつける。
それから私は新しい制服等を持って洗面所で着替えた。
本当は洗濯物を回したいところだったが、時間がない。
なるべく生徒の数が少ないうちに登校したいところ。
そのため洗濯は帰ってから回すことにした。
明日は休日であるため、それができるのだけれど。



