「まだ何か?」


念のため、再度脅しの言葉でも口にするつもりか。
それならもう安心して欲しい。

無駄に抵抗するつもりはない。
それが最も賢い方法である。


「冷たいな、川上さんの目」
「……それが言いたかったの?」

もっと他に目的があるだろうに。
いちいち延ばさないでほしい。


「ううん、違うよ」
「じゃあ何?」

「……待ってていい?」
「は?」

「ここで、川上さんのこと」


昨日に私が恐れていた瀬野の姿はそこになかった。
少し寂しげに見えるその瞳が揺れる。


「家に帰るんじゃないの?」
「うん、だからついてきて」


普通に考えて嫌に決まっている。
面倒だ。

けれど突き放せないのは弱みを握られているからだろうか。


「外で待たれても困るんだけど」
「……やっぱりそうだよね」

「家、入って。
手を出そうものならすぐ追い出すから」

「───え」


断られるものだと思っていたのか。
驚いた様子で顔を上げる瀬野。