「昨日は助けてくれてありがとう」


偽りのない自分でお礼を言う。

もし瀬野がいなかったらと思うと、恐怖に襲われそうな感覚に陥るほどだ。


「やけに素直だね」
「……うん、寝ぼけてるのかも」


なんて、後から少し恥ずかしい波が押し寄せてくる。

相手の顔が見えないから素直になれたという理由もあるかもしれない。


朝方の道路に車はほとんど通らず、バイクのエンジン音だけが耳に届く。

特にお互い話すこともないまま、私の家までやってきた。


「はい、着いたよ」
「……ありがとう」

ヘルメットを取り、瀬野に渡す。
少し髪がボサボサになったため、後で整えなければ。


「じゃあまた学校で」

他に言うことがなかった私は、それだけ口にして部屋に向かおうとした。


けれど───


「待って」


瀬野に手首を掴まれてしまう。
あまりにも突然のことだった。

前兆すらなくて、さすがの私も準備ができていなかった。