「君が心残りだったみたい。
痛みに耐えながら、君の名前を必死で呼んで」
「……やめて」
「その後は母親の妹に引き取られたんだね。そこでは除け者にされて、居心地が悪かっただろう?」
「やめて…」
「だから高校では一人暮らし、か。
随分辛い経験をしてきたんだね」
「うるさい!それ以上喋るな!!」
叫び声にも近い声が自分から発せられる。
こんな風に大きな声をあげたのはいつぶりだろうか。
「やっと見せたね、川上さんの本当の姿」
目の前の男…いや、悪魔は嬉しそうに笑う。
ゆっくりと私の頬に手を添えて。
「っ、触るな…!
私に触るな!気持ち悪い!」
「叔母さんには小学生の娘がいるんだね」
「……っ!」
余裕たっぷりな表情の瀬野は私の頬に触れたまま、まだ黙ろうとしない。
「その娘さんが拐われたら、川上さんは喜ぶ?
それとも恨まれるから嫌かな?」
「あんた、さっきから何ふざけたこと言ってんの」
「両親が亡くなって一人暮らししてること、友達は知らないんだね?」
「…っ!?」
どんどん自分が不利な状況に追い込まれているのがわかる。
瀬野は私をどうしたいのか。



