「本当に大丈夫?」
「もちろん。この通り元気だよ」

「それなら良かった…涼介が無事で」

「心配かけさせてごめんね。
でも母さんはまず、自分の心配をしないと」


けれどふたりの会話を聞いているうちに、顔を上げていた。

ふたりの会話は自然で、本物の親子にしか見えない。


前のようなぎこちない空気はなく、どちらも自然体だったのだ。



「お母さん、手術受けることになったんだね」


瀬野の母親が去るなり、私はベッド近くの椅子に腰を下ろした。

彼女は最初、何もしないと言っていたけれど。
生きる選択を取ってくれたようだ。



「あれから俺、頑張ったんだよ。
川上さんがいなくても」

「……うん、ふたりの会話を聞いてわかった。
お母さんは病院を変えたの?」

「目が覚めて部屋に川上さんがいなかった時、敵の仕業だと思った。だから母さんの安全を確認して、悠真と繋がりのあるこの病院に移動してもらった」


瀬野は終始穏やかな表情をしていた。
もうだいぶ母親と打ち解けているようだ。


「それで話していくうちに、母さんは生きようと思ってくれたみたいで…手術を受け入れてくれたんだ。今からならまだ間に合うって」

「それでもうすぐ手術なの?」
「そうだよ。まだしばらくは入院生活みたいだけど」

「お母さん、無事に元気になれると良いね」
「ありがとう。俺もそれを願うよ」


良かった、上手いこと事が進んで。
瀬野の表情を見て私は一安心だ。


「じゃあ、川上さん。
さっきの続きをしようか」

「え…?」

「もしかして何もせずに終わりだと思っていたの?
だから座っているのか」


けれど突然、瀬野が先ほどの続きを求めてきて。
過ぎたものだと思っていたため、戸惑ってしまう。



「ほら、早くこっちに来て」
「い、嫌だ…」


もうすぐでキスできた状況で、キスができなかったのだ。

寸前で終わって恥ずかしい思いをしたというのに、二度は無理だ。


「へぇ、拒否するんだ」
「…っ」

「ご褒美がないと俺、やっていけないよ」


なんて言って。
私にキスさせたいだけなのだ。

けれど私は瀬野に強く言える立場ではない。
ここは大人しく言うことを聞く。