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怪我は酷かったけれど、命に直接関わるような怪我はなかったようで、瀬野は数日で退院できることになった。
とはいえガーゼや包帯で傷口を塞がれている部分も多く、しばらくはその傷が消えないだろう。
「瀬野、ごめん」
最初は仁蘭の幹部もいたけれど、しばらくして私たちに気を遣ってか、みんな帰っていった。
この間は私が入院したけれど、今日は瀬野が入院することになった。
病室が静かになるなり、私は謝ったけれど。
なぜか瀬野は笑った。
「……おいで、川上さん」
名前を呼ばれて、上体を起こしている瀬野に近づく。
彼は私を優しく抱きしめてくれたかと思うと、頭を撫でてくれた。
こんなにも違うのだ。
剛毅さんと瀬野では。
触れられたいと思うのも瀬野だけ。
「そんな落ち込まないで。
川上さんの口から本音を聞けただけで満足だから」
「でも私…」
「もちろん、他の男へ行った罰はしっかり受けてもらうから安心してね。だから落ち込まなくていいよ」
「…え」
思わず顔を上げる。
瀬野は満面の笑みを浮かべており、嫌な予感がした。
まるで悪魔の笑みだ。
「俺のために離れようとしたのはわかってるから、これからも俺の側にいて欲しい。でも男と関係を持ったことは簡単に許せるはずない、よね…?」
「えっと…」
「他の男が川上さんを触れただけじゃなくて、抱いたとか絶対に許されない。そこは俺も譲れないよ、早く怪我を治して川上さんを…」
「ま、待って!私、剛毅さんに抱かれてない!」
そうだ。
初めて瀬野を突き放した時、剛毅さんにキスマークをつけられたために彼が誤解してしまったのだ。
てっきり忘れていた。
慌てて誤解を解くけれど。



