愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜




「そうだな…川上さんの本音が聞けたら俺、まだ頑張れるかな」

「……え」


怪我を負って、それこそ痛みで苦しいはずなのに。
瀬野は笑った。

私を見上げて、ひどく優しい顔で。
よく私に向けられていた笑顔だった。


「……っ」

涙を堪えきれなくて、それが頬を伝う。
もう限界なんてとっくの昔に超えていた。


「助けて瀬野…私はあんたじゃないと嫌。
仁蘭のみんなが良い…」


こんなこと言ったって、どうしようもないというのに。

いくら瀬野が求めたとはいえ、我慢するべき場面だったはずだ。


それでも───


「……うん、よくできました」
「え…」

「翼、もういいよ」


その時、瀬野が少し大きめの声をあげた。

突然のことで頭が追いつかないでいると、ほんの一瞬にして今いる場所の全ての明かりが消えた。


たったの数秒間で辺りが暗くなる。

頭が混乱する中、暗闇の中では複数の呻き声や倒れ込む音、さらには無数の足音すら聞こえてきた。