愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜



「でもびっくりしたなぁ」
「……え?」

「ふたり、本当に別れたの?」
「……何の話?」


不思議そうに聞いてくる沙彩だったけれど、その質問を理解できないでいた。



「だって本当に愛佳が二股してたり、乗り換えたりしてたら、普通あんな必死になるかなぁ…」

「えっ…?」


どくんと心臓が大きな音を立てる。
よくわからないけれど、気持ちが昂っていく。


「私、倒れた愛佳を見た時、逆に焦ってどうしたらいいのかわからなくなったの。そしたら先生が来る前に───」


沙彩の言葉を聞いて、どこか期待してしまう自分がいて。

ただじっと黙って彼女の話を聞く。


「瀬野が駆け寄ってきたの。“川上さん”って教室に響き渡る声で愛佳の名前を呼んだ後、すぐに状態を確認して。それから保健室に連れて行ったのも瀬野だよ」


“瀬野”

その名前が出てきた時、信じられない気持ちでいっぱいだった。


心のどこかでは期待していながらも、最低なことをした私は瀬野に冷たく扱われる身なのだ。

恨まれてもおかしくない。
それなのに───


「……っ」

「だからクラス中、大騒ぎだよ。
ふたりの関係が全くわからなくて」

私だってわからない。
どうして瀬野が助けてくれたのか。

本当に私の名前を呼んでくれた───?