愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜





それも、全員がある一点から目を背けていて───


「……っ」

ゆっくりと視線をそこに向ける。
瀬野の席だった。


今の瀬野に優しい雰囲気などなかった。
ただ一点を見つめる瀬野は無表情で。

久しぶりにその姿を見たというのに、真っ先に抱いた感情は恐怖だった。


「ほら、ここ一週間ずっとあんな感じなの。
ずっとボーッとしてる」


いや、違う。
恐らく瀬野は何かを考えている。

きっと───


「……っ!?」

思わず肩がビクッと跳ねた。
初めて瀬野がこちらに視線を向けたからだ。

その冷たい視線に、全身が凍てつくようだ。


「あっ、川上さんだ」

その声は静かな空気の中でよく通った。
落ち着いた声だった。

先ほどの冷たい視線は何処へやら、途端に優しい笑みへと変わる。