「はい、これ」
「ありがとう。ココアの良い匂いがする」
瀬野はなんの疑いもなく、自分のマグカップを受け取った。
その表情はどこか嬉しそうで。
思わず目を逸らし、隣に腰を下ろした。
「熱いから気をつけてね」
自然に、自然に。
そう心で唱えるけれど、心拍数が上がるのは仕方のないこと。
ここは瀬野を見ないで、私もココアを飲むことにした。
「……ん、甘い」
ココアの味が口いっぱいに広がる。
少し甘くしすぎたかもしれない。
「本当だ、甘くて美味しいね」
けれど瀬野はそれを受け入れてくれたようで安心する。
甘すぎて飲めないと言われてしまえば、すべてが狂うところだった。
なんて、そんな風に考えてしまう自分も嫌だ。
「さすがに毎日は飲めないね、これ。まだまだ牛乳残ってるけど…まあ料理で使えばいっか」
「牛乳を使う料理かぁ…グラタンとかかな」
「いいね、グラタン」
ココアを飲みながら、 牛乳の使い道について話すは、少しおかしかったけれど自然な会話だった。
結局グラタンに使おうという話になった。



