ゆっくりと瀬野と視線を交わす。

私を見つめる彼の瞳がひどく優しくて、油断をすれば今から起こることを話してしまいそうだ。


その気持ちを我慢していると、彼はゆっくりと私に顔を近づけてきて───



触れるだけの優しいキスだった。
自然と目を閉じて、そのキスを受け入れた。


「やっと、キスに慣れてきたね。
前まではすぐ顔を赤くしていたのに」

「…っ、うるさい」


今は恥ずかしさよりも、苦しさが私を襲う。
正直泣きそうになるのだ。


「ねぇ、そろそろ作りたいから離して」


本当はまだこうしていたいけれど。
早いうちに離れる選択をとる。

このまま時間が経つにつれ、余計に離れ難くなるからだ。




「ココア、作ってくれるの?」
「……別にあんたの分はなしでもいいけど」

「そんなこと言わないで?俺も飲みたい」
「だから今から作るって言ってるんでしょ」


不自然に思われないように。

いつも通り素直じゃない言葉を口にして、瀬野から離れることに成功した。


それ以上何も言うことなく、キッチンにやってきた私。

ポケットに潜ませていた“それ”を取り出して、小さくため息を吐く。


一気に現実に引き戻された気分だ。