「賢いお前ならわかるだろ?お前が先陣を切るんだ。今のあいつには守るものが多すぎる。俺がそれを肩代わりするんだ」
「そんな良いように言わないでくれる?
あんたのやってることは最低なんだよ」
「…ははっ、本当に気が強いんだな川上愛佳。だが、お前の存在は瀬野を弱くすることに気付いているのか?」
ドクンと心臓が嫌な音を立てる。
私の存在が、瀬野を弱くする───?
「お前と出会ってからあいつは変わった。
良く言えば人間らしく、悪く言えば弱くなったんだ。
まあその結果、俺たち煌凰も潰しにかかれたわけだが」
嫌な汗が流れる。
あの日、私が瀬野を受け入れたから、仁蘭は破滅に進む羽目に───
その時。
エレベーターが私たちの階で止まる。
「俺はそこまで気が長い方じゃねぇが…まあ、しばらくは待ってやる。覚悟を決めたら連絡を寄越せ」
「……っ」
その言葉を最後に、足音が遠ざかっていく。
エレベーターを乗り込む前に振り返った時にはもう、そこに誰もいなかった。



