愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜




「瀬野は(この)世界に不相応だ」
「…っ」

「仮に瀬野が母親と親子関係に戻れたとしよう。酷い過去を経験した分、これからは母親と幸せに暮らして欲しいと思うだろう?」


私に返事を求めているようで、素直に頷いた。

瀬野の母親の病気の進行がどのくらいかわからないけれど、突然両親を失った私としては、少しの時間も無駄にして欲しくない。


時間が許される限り、親子として過ごして欲しいと。


「だが瀬野のいる世界がそれを邪魔する」
「えっ…」


「守る側に立つ瀬野は、これからも強く在り続けなければならない。統一したところで、最初はそう上手くいかないだろう。

背負うものが増えていく一方だ。
そんな中で母親と幸せの日々を送れると思うか?」


「……っ」

「それに今は一番大事な時期だ。
俺の言葉ひとつで、母親を危険に晒すことができる」


思わず振り向いた。
そんなこと、許せるはずがないと。

けれど彼は笑っていた。
ゾッとするような、恐怖の笑みだった。


彼が本気だということはその笑みでわかる。



「……目的は」
「お前が欲しい」

「は…」
「気が強くて肝の据わった女、悪くない」


嘘だ。
彼は私のことを何も知らないはず。

人伝いで聞いただけだろう、興味を抱いたとしても欲しいとまでは思わないだろう。