愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜




今日、彼女に会えて良かったと心底思う。
同時にこのまま終わるのは嫌だとも思った。


まずは風雅さんの元へ戻るため、エレベーターを待つ。

その間も瀬野にどう話そうかと頭の中で考えていた。


きっと瀬野は中々決断を下せないだろう。

恐怖を植え付けられた上に、自分を捨てたと思っている相手と会うだなんて。


けれど私が全て話してしまうのもダメな気がした。
どうすれば瀬野は───



その時、深く考えていた私は完全に周りを意識していなかった。

そのため人影に気づいた時も、病院の関係者か見舞いに来た誰かだと思い確認をしなかった。


そんな私に人影は近づいてきて───



「良い方向に持っていけそうだな」
「……っ!?」


私のすぐ後ろで、あの恐怖心を駆り立てるドスの効いた声が耳に届いた。

途端に思考がストップし、全身が硬直してしまう。


いつからいた…?
いつから、あの煌凰の総長が───



「今日はただお前と話がしたくてな。
ひとりだったから丁度いい」

「……私に、何か用?」


精一杯の強がり。
けれど声が震えているのが自分でもわかる。

逆らえないと身体が悲鳴を上げていた。