「けれど私は、これまで涼介に…」
「悔いているならそれでいいじゃないですか。言葉にするだけでも何かが変わるかもしれない。
瀬野くんをこれ以上苦しめないでください。
その気持ちを言葉にして、彼に伝えてください」
彼女が後悔していること。
自分の過ちを認めていること。
それは私にも十分に伝わっている。
けれど、その後の選択は間違っている。
「あなたが生きているうちに、瀬野くんを救ってあげてください。苦しめたのなら、最後まで責任を持って」
私は幸せな家庭で育った。
けれど、その幸せはいつ崩れるかわからない。
だからこそ、生きているうちに瀬野と話して欲しいと思う。
願わくば、親子の関係に戻れるように。
「けれど涼介は私なんかに会いたくないと思うの」
「言い訳をして逃げないでください。あなたが決心さえすれば、私がここに瀬野くんを連れてきます」
だからどうか、心に決めて欲しい。
もう二度と瀬野を苦しめないように───
それから間も無くして、私は病室を後にする。
瀬野の母親はしばらく黙り込んだ後、ようやく決心してくれたようだった。
やっぱり瀬野と話して欲しいと思った。
意地でも彼をここに連れてこよう。
私は、次の休日にまたここに来ると約束した。



