瀬野の視線を追う。

リビングのテーブルの上には一枚の紙と、それから───


「……通帳…?」

青色の通帳だった。
透明なケースに入れられている。


先に歩いたのは瀬野。
何かに取り憑かれたかのように、ゆっくりと。

私も後に続く。
嫌な予感を胸に抱きながら。


通帳の表紙には、“瀬野涼介”と彼の名前が記されていた。


瀬野は先に、半分に折り畳まれた紙を手に取った。
私にも見える高さでそれを開く。

その紙に書かれていたのは、たったの一文だった。


【ごめんなさい】


謝罪の言葉。
誰宛とは書かれていない。

瀬野の目が見開かれ、手が震え始める。
嫌な予感はさらに膨れ上がっていく一方で。


何となく、その通帳を開いて欲しくなかった。
けれど目の前のそれに瀬野は手を伸ばす。

ゆっくりと中を開いて、そこに記された金額を見た時───


「……ふはっ、何これ」


乾いた笑い声がリビングに響き、虚しく消えた。

通帳をテーブルに放り投げ、謝罪の言葉が記された紙は手でグシャリと丸める。