愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜




いつも通りエレベーターを使って6階へと目指す。
瀬野は少し緊張した面持ちだった。


まだ瀬野は過去に囚われている。
その顔を見ればすぐにわかった。

自分で『変われた』と言っていたけれど、まだ過去と向き合えていない部分も多い。


ゆっくりと家のドアを開けて、中を確認する。
すると瀬野は安心したように息を吐いた。

恐らく母親はいなかったのだろう。
私の手を引いて中に入る。


けれど、瀬野はこのままでいいのだろうか。


ひとりで来られない、この家はきっと恐怖を植え付けられた場所。

向き合えずにいる彼を、恐怖に囚われた彼を。
放っておいていいのだろうか。


違和感の正体はこれだった。
彼の“弱さ”を見過ごしていたのだ。

このままではいけない。
どうにかして、その恐怖を取り払ってほしい。


どうにかして───


「…っ、瀬野?」

一歩先を歩く彼が突然立ち止まったから、思わずぶつかりそうになってしまった。

慌てて立ち止まり、何とかそれを阻止できたけれど。

リビングの電気をつけた彼。

明かりに照らされたリビングの中で、彼は一点だけを見つめていて。