愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜







駅に着き、瀬野の家を目指す。

外はすっかり暗くなっており、明かりの少ない夜道は不気味な雰囲気を漂わせていた。


最初こそ、いくつか会話を交わしていたけれど。
家が近づくなり、ふたりの間に沈黙が流れる。

その時、瀬野が私の手を強く握った。
なんとも言えない緊張感が走る。


やっぱり瀬野の様子がおかしい。
朝から抱く違和感は、やっぱり気のせいではない。


『自分でもわかるんだ。
川上さんに出会ってから変わったって』


ふと、瀬野の言葉を思い出す。
自分は変わったと口にしていたけれど。

今の様子を見る限り、瀬野は───


「川上さん?」

ハッと我に返る。
ついつい深く考えていた。


「なに?」
「いや、何か考え事をしているのかなって」

「あんたが喋らないから黙ってただけ。
悪い?」


瀬野のせいにして、何でもないフリをする。
けれど頭の中では瀬野のことでいっぱいだ。

やっぱり彼はまだまだ弱いのだと。


もちろんそのことを口にすることはなく歩いていると、ようやく瀬野の家があるマンションへとやってきた。