愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜




「次はどこ行こうか。泊まりでもいいね」

「まだ泊まりは早いでしょ。一緒に住んでいるんだから、泊まらなくても同じだし」

「一緒に住んでるからこそ、泊まりの旅行でもいいと思うけどなぁ」

「ダメ、まだ高校生なんだから」
「高校生なのに一緒に住んでるって、一大事だね?」

「そ、それは…あんたが」
「わかってるよ。じゃあ卒業したらにしよう」


また意地の悪いことを口にして、私の反応を楽しんでくる。


「卒業したらね」
「その時にはもう進んでるかな」

「何が?」
「俺たちの関係。体も含めてさ」

「…っ!?」


電車の中で何を言ってくるんだ。

誰にも聞こえないように。
私だけに聞こえる小さな声で。


「顔、真っ赤」
「や、やっぱり行かない…!」

「川上さんならきっと行ってくれるだろうな」
「もう黙って!」


調子のいいことを言って。
体の関係とかそういうこと、外で口にしていいわけがない。


確かにまだ私たちはキス止まりだけれど。
というより、瀬野がそれ以上のことをしないだけだ。

私は心の準備…まではできていないが、毎度毎度流されそうになる。


瀬野が止めなかったら、きっと私は最後まで───


「……うー」
「川上さん?」


そこまで考えてしまった自分が恥ずかしくなり、思わず瀬野の腕に頭を押し付けた。

私の不可解な行動に彼は心配そうに名前を呼んでくる。


けれど、どうかスルーしてほしい。

そう思い、私は目的の駅に着くまで一言も話さずに黙っていた。