愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜




「もう一度聞く。
俺の条件を呑んで統一する気はないのか?」

「貴方を上には立たせられないし、川上さんを渡す気はありません。都合の良い条件だけを押し付けないでもらえますか?」

「どうやら瀬野は物分かりの悪い人間らしい。
いつまで仁蘭が持つかどうか見モノだな」


相手は余裕の笑みを浮かべ、再度私に視線を向ける。


「仁蘭の総長様は頭が悪いみたいだが、その彼女はどうだろうな」

「……っ」


その言葉を最後に、相手の男は私たちに背中を向けて歩き始める。

彼の姿が見えたくなった時、ようやく息を吐いた。


「あれが煌凰のトップに立つ男?」
「……」

「瀬野?」
「行こう、川上さん」


私の質問に答えないまま、彼は私の手を引いた。
いつもより少し強い手の握り方だった。



「ちょ、瀬野…歩くの速い」


いつもは私の歩幅と合わせてくれるというのに、今日は先々と歩く彼。

そのくせ手は強く握っているのだから、ついていく他ない。


いつもの彼とは違う様子に私が戸惑ってしまう。
もしかして、先ほどの男の言葉に動揺しているのだろうか。


「ねぇ瀬野、話を聞いて…」
「川上さんは俺のものだよ」

「えっ…?」
「誰にも渡す気なんてないから」


その瞳に捉えられた時、言葉が出なくなった。
穏やかさも優しさもなく、それは鋭い眼差しだった。