愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜




「じゃあまた、俺と一緒に───」


私の返答を聞いた瀬野が嬉しそうに笑い、再び口を開いたその時。

突然向かい側に現れた怪しげな男が視界に入り、ふたり同時に足が止まる。


「川上さん、俺の一歩後ろについて」
「…っ、うん」


それが緊急事態であることは、瀬野の様子を見てすぐにわかった。

瀬野の纏う空気が変わったのだ。


相手は人通りの少ないこの道を選んで待ち伏せしていたのか、フードを被りながら電柱にもたれていて。


「随分と感覚が鈍ったみたいだな、瀬野。俺の存在に気づくのがそこの女と同時って、仁蘭の総長も落ちたもんだ」


ドスの効いた声だった。
嫌な汗が背中を伝う。

相手からは圧を感じ、只者ではないということを瞬時に理解した。


足が竦んで動かなくなる。
身体中、相手が危険だと叫んでいるようで。


「───これは驚きました。
煌凰の総長がひとりで現れるだなんて」


けれど瀬野は冷静だった。
微かな動揺すら感じられない。