愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜




「じゃあ、今度はこっち行くよ」
「うん」


胸がドキドキしているのを隠すようにして、その場を移動する。

このままだと水族館に集中できなくなってしまうではないか。


最初こそ瀬野を意識していたけれど、気付けば水族館に見入っていて。

お昼は館内のカフェを利用し、ショーを見てから最後にお土産コーナーへとやってきた。


「あ、かわいい」


そこで目に入ったのは白くまのマグカップで。

沙彩と真田に買うお土産しか考えていなかったため、自分も形に残るものを買おうかと思い始める。


それに───


「何見てるの?」
「わっ…!」

突然瀬野に声をかけられたため、驚いて肩がびくっと跳ねる。

もう少し予兆というものが欲しい。


「びっくりした…いきなり何?」
「それってペアのマグカップ?」

「…っ、べ、別にたまたま目に入っただけで…」


咄嗟にマグカップを元の位置になおしてしまう。
瀬野の言う通り、色違いのペアマグカップだから目に入ったのだ。

別に家の中でもひとつやふたつ、恋人らしいものがあってもいいじゃないかって。