愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜







それはまるで、幻想的な空間だった。

水族館なんてもう何年も行っておらず、記憶にもほとんど残っていない。


そのため目の前に広がる光景にただ圧倒されていた。


「瀬野、見て!
クマノミだ!映画で観るやつだね」

「……うん」
「かわいいなぁ。思ったより小さいね…って、瀬野?」


繋がれた手に力を込められたため、少し痛くて彼を見るけれど。

何故か私から顔を背けられている。


「どうしたの?」
「いや、川上さんもそんな顔するんだなって」

「えっ…?」

「幼くて、無邪気なかわいい顔。
今相当心臓にきてる」


自分でもワクワク感が止まらず、興奮していたのはわかっていたけれど、指摘をされてさらに恥ずかしくなる。


「い、言わないで…」

「でも川上さんの自然な笑顔が見られて嬉しいな、
楽しそうで、俺まで同じ気持ちになれる」

「だってすごく綺麗で…圧倒されてる。
瀬野もちゃんと見てる?」

「もちろん見てるよ」


なんて言いながら、その視線は私に向けられる。
少し薄暗いこの空間のせいで、瀬野が色っぽく思えた。