愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜




「確かに親子連れも多そうだね」
「……っ」

耳元に瀬野の吐息がかかる。
自然な素振りを見せてくるけれど、絶対にわざとである。


「川上さん?」

意地の悪い声がする。
なんだか罠にかかったような感覚に陥った。


「な、なに…」
「いや、急に黙ったからどうしたんだろうなって」

「別に、画像見てただ…ひゃっ」


負けじと平気なフリをしようとしたけれど、耳を軽く噛まれてしまう。

さすがの私も声を抑え切ることができなかった。
だってそんな不意打ち、聞いてない。


「な、何して…」

「こんな風に肩を出して。
俺が何もしないとでも思った?」


静かで落ち着いた声。

触れられた部分から順に熱くなり、火照るような感覚がする。


「これは沙彩が選ん…」
「嫌なら拒否すれば良かったのに」


瀬野がスマホの電源を切って、テーブルの上に置いた。

まるで何かが始まるかのような合図だ。