愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜




「……瀬野」

名前を呼べば、すぐに彼は顔を上げた。
ただそれだけで、自分の心拍数が増えたのがわかる。


「べ、別に当たり障りのない格好でしょ…」

「……川上さん、こっちにおいで。
タグを切らないと」


けれど瀬野は何も感想を言わない。
そのため逆に不安になる。

似合わないだとか、瀬野の好みの格好じゃなかったのだろうかと。



「川上さん?」
「…っ、はいこれ」


平静を装い、彼にハサミを渡す。
これでタグを切ってもらうためだ。

別に瀬野に何かを言って欲しかったわけではない。
けれど少しぐらい反応してくれたっていいじゃないか。


大人しく瀬野の前に座る。
フレアスカートを踏まないよう、ゆっくりと。


「あ、あったあった」


瀬野は器用にタグを手に取り、ハサミの刃を通す。

触れられているわけではないけれど、その手つきが優しいことぐらい簡単に想像できた。


「はい、切れた」


瀬野はそれだけ言うと、立ち上がってゴミ箱にそれを捨てる。

私の服に対しての感想は一切口にしないまま、また同じ場所に座った。