「…っ、まだ」
足りない。
そんなひとつの優しいキスで安心できない。
以前、敵の男たちに絡まれた日の夜みたいに。
上書きするように、甘い甘いものが欲しい。
「本当にどうしたの、川上さん。
欲しがるだなんて」
「……気分」
「嘘つかないで?
そんな不安そうな顔して」
ただ何も聞かずに。
嬉しそうな顔をしてキスしてくれれば良かったのに。
どうしてわざわざ聞くのだ。
「うるさい…」
「話してくれないと俺、何もしてあげられないよ」
「……じゃあ何もしなくて」
「ほら、俺に教えて」
瀬野が私を優しく包み込む。
本当にズルイ、そんな優しい抱きしめ方。
「……どうして」
「うん」
「瀬野は、莉乃ちゃんを優先して…どういう、関係なの」
瀬野の胸元に顔を埋める。
ギュッと抱きついて、顔を見られないように。
「……それは、予想外だな」
「えっ…?」
けれど瀬野が驚いたような声をあげるから、不安になって顔を上げる。
瀬野は私と視線が絡み合うなり、額をくっつけてきた。
「だからそんな不安そうな顔?」
「…っ、悪い…?」
「ううん、嬉しいよ。
妬いてくれてるんだなって」
ひどく優しい眼差しが私に向けられる。
ただそれだけで、不安が少し和らいだ気がした。



