愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜




「じゃあお願いしようかな」
「ありがとう。痛かったら言ってね」


お礼を言うのは私の方なのに、瀬野は自ら『ありがとう』と言う。

それから真剣な表情で、優しく丁寧に処置してくれる。


「……痛くない?」
「うん、大丈夫」


時折確認してくれる瀬野に大丈夫だと答えながら、私は彼を目で追っていた。


私の心配をしてくれているようで、悪い気はしない。

むしろこの怪我のおかげで…なんて、良くない考えをしてしまう自分もいた。


「はい、できた。
これからは俺がするからいつでも言ってね」

「…本当?」


それって、毎日という意味だろうか。

莉乃ちゃんと外で泊まる、そんな日もありそうで再び不安になる。


「川上さん?」


どうせなら、いつもみたいに触れてほしい。
私に迫ってほしい。

それならこの不安は消えるかもしれない。
今日なら私、素直に受け入れてあげられる気がする。


「……なに」


私の異変に気づいた瀬野の手が頬に添えられる。

もっと。
こんな触れ方じゃ安心できない。