「やっと瀬野と離れられるんだ、嬉しい」
「あっ、ひどいこと言う。俺は嬉しくないよ」

「あんたの気持ちなんか関係ない」


瀬野がいることを“当たり前の日常”と化していたのが恐ろしい。

冬休み前まで私はひとりで暮らしていたのだ。
またゆっくりひとりで過ごすことができる。


ようやく離れられるんだ、嬉しい以外の何ものでもないはずなのに。

どうして胸がモヤモヤするのだろう。
複雑な気持ちである。


「あーあ、寂しいなぁ。
またいつもの生活が始まるよ、川上さん」

「私に言わないで」


そうだ、瀬野は女の人の家を転々としていたんだ。

きっと女の人たちにも甘い言葉を囁いて。
優しい手つきで女の人たちに触れて、それから───


「…っ」


嫌だ、今の自分が。

こんなことを考えて、勝手に複雑な心境に陥っているのだ。


「川上さん?」
「……嫌だ」

「えっ?」
「嫌だ、もう寝る!私に触れないで!」


油断していたのか、簡単に瀬野から離れることができた。


電気を消さずにベッドに入って。

今の表情を見られたくなくて、瀬野に背中を向けて横になる。