愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜




「もしかして朝の約束、忘れた?」
「……覚えてたの?」

「もちろん。たくさん川上さんをかわいがるんだって」
「そ、それはいい…」

「とりあえずここに座ってよ。ちゃんと川上さんがやめてって言ったらやめるからさ」

「や、約束だからね…!」


なんて、強気の発言をした後。

素直に瀬野の前に座る私って、それはそれでどうなのだろう。


「うーん、やっぱり俺に背中を向けるかぁ」
「なに、文句あるの」


瀬野と向かい合って座ろうものなら、それなりの危険が伴うのだ。

ここに座っただけでも感謝してほしいくらいである。


「仕方ないね、これで我慢するよ」

“我慢”だなんて言い方、少し不服だ。
私が折れてあげたようなものなのに。


けれど瀬野はお構いなしに、後ろから私に抱きついてきた。


「やっぱり川上さんが落ち着くなぁ」
「……私は落ち着かないけどね」

「そんなこと言わないで」
「本当のことだから」


瀬野の悲しい声は、なんともわざとらしい。
どうせ私の思考全部を見透かしてるくせに。