愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜




「さすがの俺も途中で嫌になって、食べるのをやめたんだ。それに気づいた母親は次の日からカレーの代わりに、リビングのテーブルにお金が置かれてた。自分で好きなものを買えって意味だなって」


なんて声をかけたらいいのかわからなくて。

何も言わないのもまた良いんじゃないかと思った私は黙る選択をした。


「一生分のカレーを食べたんじゃないかって思ったくらいだったけど…久しぶりに食べたらやっぱり美味しいね」

「まずいって言ったらキレてたけどね」
「ふはっ、怖いこと言う」


やっぱり強気の発言をしてしまう私。
もっと相手を気遣う言葉をかけられないのか。

表の自分ならきっと良いように言えたはずなのに。
こういう時、きつい自分が嫌になる。


「じゃあ残ったカレーはアレンジでもしよう」
「アレンジ?」


私の言葉に対して瀬野が質問をしてきたため、素直に答える。


「カレーうどんとか、ドリアとか。
明日も普通のカレーだと嫌でしょ?」

「……もしかして俺のため?」
「…っ、違う。私も飽き性だから…」


けれど、どうしても気遣いの言葉ひとつかけられない。

行動だけでは相手に伝わるものも伝わらないというのに。